スーパーマーケットとその仕入先との取引のような企業間の取引は,通常は掛取引であり,即金で支払われることは滅多にありません。
月末締めの翌月XX日払いといったような支払条件が多いと思われます。
ここでは月末締めの翌月末日払いとします。
スーパーは買掛金支払に手形を振り出すところは少ないので,この場合の仕入債務回転日数は,平均して45日くらい(月末だけみれば30日)になります。
すると,このスーパーの運転資本回転日数はマイナス 借入金の資本コストレート=金利×(1一実効税率)となります。
次に,株主資本(自己資本)のコストも忘れないでください。
株主資本コストレートは株主の期待する収益率です。
株主資本は資本提供者にとってのリスクが高い分,負債資本よりも使用コストは高くなります。
株主の期待に応える方法は,配当金支払だけではありません。
株主にとっては,投資先企業の株式価値が高くなることもリターンです。
株式公開している企業の株式価値は,市場価格です。
すなわち,公開企業の場合は株価を上昇させることも,株主へのリターンになるのです。
一定期間をとって,配当金十株価上昇によって株主がどのくらい儲かったかを示す指標にTSR(トータル・シェアホルダー・リターン)があります。
例えば, 5年前にA社株式を100購入し,以降の配当金はすべてA社株式に再投資していたら,現時点では150の価値になったとします。
この場合, A社株式の5年間のTSRは ここで,企業は事業活動から獲得し,手元にある資金をどうすればいいのかを考えてみましょう。
配当金として投資家に返すべきでしょうか。
それとも内部留保して,事業に再投資すべきでしょうか。
結論と理由は,次のようになります。
資本コスト以上のリターンが期待される投資案件があり,そのために資金が必要な場合は,内部留保し再投資する方がよいでしょう。
企業の純利益は投資家の持ち分であり,企業が内部留保した金額は,投資家にとっては,その企業に再投資したことに他なりません。
よって,企業は再投資分に関しても,投資家の期待に応える必要があります。
仮に資本コスト以上のリターンが期待できる投資案件が存在しない場合や,投資を行っても余剰資金がある場合は,自社株式買入や配当金支払によって資金を株主(資本市場)に返還する方がよいといえます。
ただし,株主資本を減らして,負債資本に依存し過ぎるのは危険なことです。
その場合,倒産リスクが増大し,負債資本コストが上昇します。
また本当に倒産してしまっては元も子もありません。
よって目標とする財務安定性の水準(例えば格付け)を考慮しながら,最も加重平均資本コスト(WACC)が低くなる水準で,余裕資金の水準と,負債資本と株主資本の比率を設定すべきです。
過去においては,豊富な余裕資金と高い自己資本比率を持つ企業が「優良企業」と呼ばれていました。
しかし現在では,社会に蓄積された資本を有効活用し,その価値を高める企業を「優良企業」とする考えが主流となりました。
余裕資金を有効活用していない企業に,株式市場は厳しい評価,すなわち株価低迷を与えるようになっています。
以上,企業活動におけるキャッシュフロー・サイクルについて解説しました。
次に簡単なケーススタディを見てみましょう。
ケーススタディ…事業を立ち上げたという人が新しく事業を始めることを想定してみてください。
彼はある研究所に15年間ほど勤務していました。
そして独立を決意し,自分のアイデアに基づいた新しい検査測定機器の開発と製造販売を実施する「渡辺テクノロジー株式会社(以降WT社)」を, 2000年1月に設立しました。
ここでは,WT社のキャッシュフロー・サイクルについて説明します。
取引例は思い切って簡略化します。
まずは事業資金を調達する必要があります。
渡辺さんは自己資金だけでは不足と考えて,ベンチャー・キャピタル(VC)および銀行と交渉しました。
あるVCが,技術力,市場の将来性,そして彼のパーソナリティを評価してくれました。
そして彼は, 出資を引き出すことに成功しました。
また銀行からは,自宅を担保にして融資を受けました。
渡辺さんの資金調達先と調達額は下記の通りです。
渡辺さんは自分の技術力には自信を持っていました。
でもちょっと心配もしていました。
どんなに優れた新製品を開発したとしても,事業としての経済性がともなっていないと会社は存続できないからです。
資金のめどがついた渡辺さんは,次に事業所や研究開発用の設備を調達することにしました。
事業所用建物を賃借し,保証金を支払いました。
また研究開発用設備を購入しました。
彼は当初の1年間を新製品開発に費やしました。
この間の活動は,すべて研究開発にかかるものでした。
こうした研究開発費の支出も,資本的支出に含まれます。
WT社のこの1年間の支出は,下記の通りでした。
<保証金> 500万円:会計処理上は投資その他の資産に計上しました。
償却は実施しません。
<研究開発用設備の購入> 3500万円:有形固定資産に計上して6年間(定率法)で償却することにしました。
<その他研究開発のための支出> 1000万円:会計上は繰延資産に計上して5年間で償却することにしました。
2000年12月末,渡辺さんは画期的な新製品の開発に成功し, 2001年から営業活動を開始しました。
新製品の製造は,ある電子部品メーカーに委託しました。
部品は先方が調達し, WT社は完成品を仕入れる契約形態をとりました。
メーカーには仕入月の翌月末に振込で代金を支払うことにしました。
(買掛金の回転期間は約1.5ヵ月) 営業開始に際して,従業員を4名採用しました。
彼らには毎月25日に当月分の給与を支払うことにしました。
まもなく,製品の革新性と営業努力が実って,多くの受注を取り付けることができました。
WT社は,製品を仕入れて検査し,出荷,納品するまでのリードタイムが15日かかっていました(製品仕入高に対する在庫回転期間は約0.5ヵ月)。
顧客からの売上代金は,納品検収の3ヵ月後に振り込まれることになっていました(売掛金の回転期間は約3ヵ月)。
WT社の場合,最初の製品の仕入から売上代金が回収されるまで3ヵ月半かかります。
一方で仕入代金は2ヵ月目の末日に支払う必要があります。
生産が継続していれば3ヵ月目の末日には次の部品代金の支払いがやってきますし,給与は3回支払うことになります(図 このように,売上代金を得るよりも先に,仕入代金や給与等を支払うことになる場合には,その間のつなぎ資金が必要になります。
これが運転資本です。
この過程で,売上代金は,部品代金,人件費,およびその他営業費用の合計金額を上回っていないと資金が目減りしてしまうことはいうまでもありません。
また,銀行借入金の金利を支払う必要があります。
年利率5%になっていたので,年間100万円の金利を支払いました。
営業利益から金利を差し引いた金額に対して, 50%の税金がかかりました。
事業は立ち上げたばかりであり,翌年以降も順調に拡大すると見込まれたので,配当金は支払わず再投資に回すことにしました。
ここで, 2000年度および2001年度におけるWT社の貸借対照表(表2-1),損益計算書表2-2),およびキャッシュフロー・サイクル分析表(表2-3)を示しました。(注)2001年度の法人税額計算において, 2000年度に発生した繰越欠損金を考慮した。
す。
本章の3節「キャッシュフローの把握方法と体系」のケーススタディでも,この例を用います。
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